チェンジ・ザ・ワールド Change the World121回「授業に歌を」 雑誌「新英語教育」2005.7 の元原稿なので後半が長くなっています。■ Change the World Eric CLAPTON チェンジ・ザ・ワールド(♪エリック・クラプトン) この歌ではcould が効果的に使われています。そこで今回は問答形式で授業展開例をご紹介します。 若手の教師Sさんが、大学でお世話になったT教授のもとを訪れています。 ■ 助動詞couldは「(やろうと思えば)できる」「ありうる」と覚えよう! Sさん(以下S):高校3年の授業でChange the Worldという歌を取り上げたら生徒に好評でした。couldがたくさん使われているので、canとcouldの使い分けを以下の表を板書して説明しました。 ●現実味あり I can できる play the piano. ピアノを弾く… swim. 泳ぐ… fly. (本当に!?) 飛ぶ… ●現実味なし I could (やろうと思えば)できる ありうる fly 飛ぶ… reach the stars 星に手が届く… see the truth 真実がわかる… T教授(以下T):なるほど。並列関係にある例文を表示するのはいいやり方ね。 S:次に生徒に発問しました。「鳥ではなく、人間であるみなさんはI can flyとI could fly、どちらを実際に言いますか? 手を挙げてくださーい」って。「I can fly」の方に手を挙げた生徒の1人に「じゃ、飛んでみて」とツッコミを入れたら困ってましたヨ。 T:まあ! 生徒たち、わかったかしら? I can ~と言うと「実際に~できる」と宣言しているって。I could ~というのは、「やろう思えば~できる」が、これから実際にするとも実際に出来るとも言ってはいない。あくまでも仮想空間でのこと、可能性として「ありうる」ということですものね。 S: I wish I could.(できるといいのですが)と言うのと、I hope I can.(できるといいな)やI'm sorry I canユt.(ごめん、できない)と言うのではずいぶん違うと説明し、最後に日本全国で有名な例文、If I were a bird, I could fly to you.「鳥だったらあならのもとに飛んで行ける」を板書しました。 T:でも日本のなかでcouldを誤解している人、ほんとうに多いわ。日本では「couldの意味は?」と訊くと、「canは『できる』で、couldは『できた』です」って十中八九答えますね。 S:でもT教授は私の学生時代にこう教えてくださいましたね。「couldは『(やろうと思えば)できる』『ありうる』と覚えておくといいのよ」って。「目から鱗」でした。この話、生徒にしました。 ■ セリフや対話文で例文を提示しよう T:お役に立ててうれしいわ。助動詞の理解のためには、時制(現在時制と過去時制)で場合分けして、助動詞を使わない述語動詞の体系を示して、それから助動詞を提示することが必要なの。そうしないから誤訳が生まれるのよ。ポール・リクール(Paul Ricoeur)『時間と物語2』新曜社(1988)が紹介しているバンヴェニスト(Emile Benvenist:1966)のフランス語の時制に関する仮説(p. 112)を、私の考えで英語に適用すると、現在時制では話し手と聞き手を想定する場での対話文で考えると例文が自然になる。仮定法や助動詞の例文は「" "」をつけたセリフかAさんBさんの対話文にするのがいいの。(『ロングマン英英 第4版』を棚から取り出しながら…)この例文を見て。 S:拝見します。1744ページのtiredの項ですね。"I'm so tired that I could sleep for a week."ですか…。あれ、I wasではないんですか? ミスプリントかなぁ。「私はとても疲れていたので1週間眠ることができました」という意味ですよね? T:いえいえ、Sさん、I'mでいいのよ…。 S:「私はとても疲れているので1週間眠ることができました」ですか? T:まだ違うわ。現在時制でのcouldの意味は? S:あっ、couldは「(やろうと思えば)できる」だから「眠いので1週間眠れる」だ! T:似た例文にはIユm so hungry that I could eat a loaf of bread. (お腹がすいている、パン1斤たべられるくらいだ)があります。 A: You look sleepy, Ken. B: I'm so tired that I could sleep for a week! 対話文にするならこんなかんじかしら。 S:生徒に私と同じ轍を踏ませぬよう、例文の提示には留意します! 以下は雑誌の記事では割愛しました。 ■ 参照(refer)できること=学問の基本 T:couldn'tの例文にはコウビルド第1版の I couldn't kill an animal myself, but I don't mind other people doing it. (自分で動物は殺せないが、他人がしているのは気にならない)があります。 S:ちょっと物騒な文ですね! でもcouldn't doが「出来なかった」ではなく「(やろうと思っても)できない」の意味だと分かりますね。私も例文を集めています。ロングマンとコウビルドでいいものがあるとワープロにストックして、版によって例文が違うので(L1)とか(C3)のように書いています。 T:いい習慣ね。やはり「参照(refer)」できないと学問とはいえないわ。江川泰一郎さんの『英文法解説』(金子書房)はその点で学者のモラルを守っていてすばらしい。これはSwanの説、これはQuirkだと書いてあるから関心があれば自分で研究できるのよ。英語教育の世界でも、このモラル、守りたいわ。 ■ Change the World Eric CLAPTON チェンジ・ザ・ワールド(♪エリック・クラプトン) 星に手が届くなら、 1つ、君のために取ってあげる。 その星を心に照らせば 本当のことがわかるよ。 この愛[僕が心に持っている]が すべてのように思えるんだよ。 でも、今のところは、 僕の夢の中でのことなんだ。 僕が世界を変えられるなら、 君の宇宙の太陽になるよ。 僕の愛が… 何かいいものだと君が思ってくれるなら。 世界を変えられるなら。 たった1日でも王様になれるなら、 君が女王様。 それ以外はない。 そして、僕らの愛が支配する… 僕らが作った王国を。 その時まで、僕は愚か者… その日を望んで…。 僕が世界を変えられるなら、 君の宇宙の太陽になるよ。 僕の愛が… 何かいいものだと君が思ってくれるなら。 世界を変えられるなら。 世界を変えられるなら。 世界を変えられるなら。 ◆ canとcouldの違いは現実味があるかないかの違い。couldには現実味がない。couldは「(やろうと思えば)できる」「ありうる」と覚えよう。 couldn'tは「(やろうと思っても)できない」「ありえない」です。 |